退職金の税金と受け取り方|一時金と年金どちらが得かを徹底比較
退職金にかかる税金の基本
退職金は給与所得とは別の「退職所得」として扱われ、税制上大幅に優遇されています。同じ金額の給与より遥かに税負担が軽くなる設計です。
退職所得の計算式
退職所得 = (退職金 − 退職所得控除) × 1/2
ポイント:
- 退職所得控除で大きな金額が非課税枠になる
- 控除後の金額をさらに半分にする
- その半分の額に所得税・住民税が課される
つまり、実質的な税負担はかなり低いです。
退職所得控除の計算
| 勤続年数 | 控除額の計算 | 例 |
|---|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数 | 勤続15年 = 600万円 |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 × (勤続年数 - 20) | 勤続30年 = 1,500万円 |
例: 勤続38年 → 800万円 + 70万円 × 18 = 2,060万円 が非課税枠
一時金で受け取る場合
退職金を一括で受け取るパターン。退職所得控除と1/2課税が最大限活きる方式です。
一時金のシミュレーション
前提: 退職金 2,000万円 / 勤続30年
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 退職金 | 2,000万円 |
| 退職所得控除(勤続30年) | 1,500万円 |
| 控除後 | 500万円 |
| 退職所得(× 1/2) | 250万円 |
| 所得税(5-45%累進) | 約 15.2万円 |
| 復興特別所得税 | 約 0.3万円 |
| 住民税 | 約 25万円 |
| 税金合計 | 約 40.5万円 |
| 手取り | 約 1,959.5万円 |
→ 退職金2,000万円のうち手取り率は約98%。給与所得でこれを受け取ると数百万円の税負担になることを考えると、退職金税制の優遇は非常に強力です。
勤続年数別の税負担
退職金1,500万円を受け取った場合の概算:
| 勤続年数 | 退職所得控除 | 退職所得 | 税金合計 | 手取り率 |
|---|---|---|---|---|
| 20年 | 800万円 | 350万円 | 約 70万円 | 95.3% |
| 25年 | 1,150万円 | 175万円 | 約 26万円 | 98.3% |
| 30年 | 1,500万円 | 0円 | 約 0円 | 100% |
| 35年 | 1,850万円 | 0円 | 約 0円 | 100% |
勤続30年以上 + 退職金1,500万円以下なら、税金ゼロです。
年金形式で受け取る場合
退職金を分割で年金として受け取るパターン。所得税法上は「雑所得」となり、公的年金等控除が適用されます。
公的年金等控除
| 受給者の年齢 | 控除額の目安 |
|---|---|
| 65歳未満 | 年60万円まで非課税 |
| 65歳以上 | 年110万円まで非課税 |
これに加えて、収入区分別の控除があります。
年金受取のシミュレーション
前提: 退職金2,000万円を10年分割(年200万円)/ 公的年金もあり
65歳以上で他の年金収入250万円ありの場合
- 退職金分: 年200万円
- 公的年金分: 年250万円
- 合計の公的年金等収入: 年450万円
- 公的年金等控除(450万円の場合の概算): 約 165万円
- 課税所得(雑所得): 約 285万円 / 年
- 所得税・住民税: 約 50万円 / 年
- 手取り: 約 400万円 / 年
10年合計手取り: 約 4,000万円(公的年金込み)
→ 一時金受取より長期で見て手取りが多くなることがあります。ただし他の所得状況によります。
一時金 vs 年金 :どちらが得?
結論: 退職金額・勤続年数・他の所得・他の資産状況で変わります。
一時金が有利なケース
- 勤続年数が長く、退職所得控除が大きい人
- 退職金額が退職所得控除以下(=税金ゼロ)
- 他に老後収入が多い(年金受取だと税率が上がる)
- 一括投資で運用したい
年金が有利なケース
- 退職所得控除以上に大きな退職金(控除を超える部分を分散)
- 他の所得が少なく公的年金等控除を使い切れる
- 受取期間中の安定収入として活用したい
- 一括取得後の運用管理に不安
併用が有利なケース
- 大きな退職金(3,000万円〜)
- 一部一時金 → 退職所得控除で非課税枠最大化
- 残りを年金 → 公的年金等控除で長期分散
- このパターンが最も税負担を最小化できることが多い
退職金とiDeCoの関係(10年ルール)
退職金とiDeCoを両方受け取る場合、順序とタイミングが税負担を大きく変えます。
10年ルールとは
退職金を先に一時金で受け取った場合、その後10年以内に iDeCo を一時金で受け取ると、退職所得控除が再使用できません。
具体例
ケースA: 60歳でiDeCoを一時金受取(1,000万円)→ 65歳で会社退職金(2,000万円)
- iDeCo の退職所得控除: 40万円 × 拠出年数(仮に20年)= 800万円
- 退職金の退職所得控除: 退職所得控除の調整で大幅減少
- 結果: 退職金の税負担が大幅増
ケースB: 65歳で会社退職金(2,000万円)→ 75歳で iDeCo 一時金受取(1,000万円)
- 退職金の退職所得控除: 勤続38年 = 2,060万円 → 税金ゼロ
- iDeCo の退職所得控除: 10年以上空けて再使用可能
- 結果: 両方とも税金最小化
→ iDeCoは退職金から10年以上空けて受け取るのが原則。詳細はiDeCoの受け取り方と税金(10年ルール)で解説しています。
退職金を受け取った後の運用
退職金が振り込まれたら...
- すぐに全額を投資しない — 60代以降は損失リカバリー期間が短い
- 生活防衛資金を1-2年分確保(現預金)
- NISA枠を活用して非課税運用 → 新NISA完全ガイド
- 残りは保守的な運用(債券・バランスファンド中心)
一時金 + 運用で増やすケース
退職金2,000万円を65歳から運用した場合、年利3%(保守的)で:
- 65歳: 2,000万円
- 75歳: 約 2,690万円
- 85歳: 約 3,615万円
月の取り崩し額にもよりますが、運用しつつ取り崩せば老後資金として大きな力になります。
老後資金全体の必要額については老後資金はいくら必要?税引後・インフレ調整後でシミュレーションで詳しく解説しています。
ケース別 おすすめ受取方法
ケース① 大企業勤続40年・退職金3,000万円
| 受取方法 | 推定手取り |
|---|---|
| 全額一時金 | 約 2,860万円(93%) |
| 全額年金(10年) | 約 2,750万円(92%) |
| 併用(一時金2,200万+年金800万) | 約 2,920万円(97%) |
→ 一時金で退職所得控除を使い切り、残りを年金で公的年金等控除へ。
ケース② 中小企業勤続20年・退職金600万円
| 受取方法 | 推定手取り |
|---|---|
| 全額一時金 | 600万円(100%) |
| 全額年金 | 約 550-580万円(92-97%) |
→ 退職所得控除800万円の範囲内なので、一時金が圧倒的に有利(税金ゼロ)。
ケース③ 自営業からの退職金がない人
iDeCo を一時金で受け取る場合のシミュレーション。月7.5万円を30年積立、年利5%:
- 受取額: 約 6,235万円
- 退職所得控除(30年): 1,500万円
- 控除後: 4,735万円 × 1/2 = 2,367.5万円
- 税金: 約 800万円
- 手取り: 約 5,435万円
→ 年金分割で公的年金等控除を活用すれば、さらに節税可能。
Shisan で受取方法を比較する
Shisan では、退職金や iDeCo を含めた老後資金全体の手取りを試算できます。
試算手順
- 「現在の総資産」に退職金見込み額を加算して入力
- NISA・iDeCo の残高を区別
- 取り崩し開始年齢を 60歳/65歳/70歳 で比較
- 月の取り崩し額(生活費)を設定
- 想定利回り・インフレ率を入力
結果カードで以下を確認:
- 取り崩し開始時の税引後総資産
- インフレ調整後の実質購買力
- 資産寿命(何歳まで持つか)
まとめ
- 退職金は退職所得控除 + 1/2課税で大幅優遇
- 勤続30年以上 × 1,500万円以下 なら税金ゼロも可能
- 一時金が有利なのは「退職所得控除が大きい / 退職金が少なめ」
- 年金が有利なのは「金額大きい / 他の所得少ない」
- 大きな金額(2,000万円〜)は併用が最適
- iDeCo との「10年ルール」に注意 — 受取順序とタイミングが税負担を大きく変える
- 受取後は生活防衛資金を確保しつつ NISA で非課税運用
退職金は人生で最大級の収入。受取方法ひとつで数百万円の手取り差が出るため、退職前年に税理士・FPへの相談を強く推奨します。
iDeCo の受取についてはiDeCoの受け取り方と税金(10年ルール)、2026年改正による拠出枠拡大はiDeCoの2026年改正、老後資金全体の設計は老後資金はいくら必要?もあわせてご覧ください。
ぜひShisan で、退職金を含む老後資産の税引後・実質購買力を試算してみてください。
よくある質問
勤続38年で退職所得控除2,060万円が認められるため、退職金が同額以下なら税金はゼロです。例えば勤続30年なら1,500万円、勤続40年なら2,200万円までの退職金は所得税ゼロ(住民税のみ少額)になります。
退職金額・勤続年数・他の所得状況で変わります。一般論として(1)勤続年数が長く退職所得控除が大きい人は一時金有利、(2)他の所得が少なく公的年金等控除を使い切れる人は年金有利、(3)金額が大きい場合は併用が最適。Shisanで両パターンを試算できます。
「10年ルール」があります。退職金を先に受け取った場合、その後iDeCoを一時金で受け取るには10年以上の間隔が必要です(10年以内だと退職所得控除が再使用できない)。これにより税負担が大きく増える可能性があり、受取順序とタイミングが重要です。
公的年金等控除が適用されます。65歳未満なら年60万円まで非課税、65歳以上なら年110万円まで非課税。これを超える部分は雑所得として総合課税されますが、他の所得が少ない方は手取り額が大きくなる傾向があります。
はい使えます。企業型DCとiDeCoのいずれも一時金で受け取る場合、退職所得として退職所得控除の対象になります。ただし会社の退職金と合算で受け取り順序により控除額が変動する「合算ルール」があるため、税理士・FPへの相談が推奨されます。
本記事は情報提供を目的としており、投資・税務に関するアドバイスではありません。実際の投資判断・税務処理はご自身の責任において行い、必要に応じて専門家(税理士・ファイナンシャルプランナー)にご相談ください。掲載情報は執筆時点のものであり、税制改正等により内容が変わる場合があります。詳しくは利用規約をご確認ください。